【広島 vs 長崎】 ウォーミングアップコラム:広島で初めてのピースマッチ 広島の子・川辺駿は、深い想いをエネルギーに変える

2018年8月10日(金)


サンフレッチェ広島の選手がマツダスタジアムで始球式のマウンドに立ったのは佐藤寿人選手(現名古屋)以来ではないだろうか。8月7日、川辺駿(写真)選手が広島カープのホームスタジアムで始球式を行ったことは、それほどのレアケース。緊張するのも無理はない。

「マツダスタジアムは素晴らしい雰囲気で、飲み込まれそうになりました」と川辺は笑う。実はこの日、カープは「ピースナイター」という冠のもと、1945年8月6日に想いを馳せつつ、平和を願う様々なイベントを行っていた。広島出身であり、曾祖母が被爆を体験した川辺駿に始球式の依頼があったのは、そういう理由がある。

そして明日、サンフレッチェ広島も「ピースマッチ」を迎える。相手はV・ファーレン長崎。共に被爆地をホームタウンとするプロクラブがトップリーグで対戦することは今季が初めてであり、それはもちろん世界でも例がない。なぜなら、世界で原爆が投下された都市は人類史上、広島と長崎しかないからだ。

この日は様々なイベントが予定されている。広島と長崎の選手たちがピースマッチ用の平和祈念ユニフォームを身にまとって出場することはすでに決定。広島は長崎のチームカラーであるオレンジ色をアクセントカラーとして使用し、折鶴のイラストに「広島から恒久的な平和を祈る想い」を表現したシャツを着てプレーする。他にもスタジアムで寄せ書きを行ったり、小学生対象に平和学習を行ったり。サンフレッチェ広島の久保允誉会長とV・ファーレン長崎の高田明社長の対談もまた、楽しみである。

そういう盛りだくさんのイベントの中でも、やはり選手たちがどういうプレーを見せてくれるかによって、このピースマッチの成功が問われるのは言うまでもない。城福浩監督は「世界でたった二つ、被爆都市をホームタウンとするクラブが対決するという意味を考えると、我々はとにかく気迫をもって、結果を求めつつも見ている方々が清々しい想いになれるような激しくてフェアプレーをお見せしないといけない。それが我々の使命だ」と語った。その想いは、選手たちにとっても同感だろう。

毎年、どこにいても8月6日の8時15分には黙祷を捧げるという川辺駿は、「広島では初めてとなるピースマッチのピッチに立てる可能性があることに感謝したい」と語った。

「二つの被爆都市をホームタウンとするチーム同士が試合をすることは特別なこと。自分はずっと広島出身であることを感じてきたし、ユニフォームに折鶴があしらわれていることについても、深い想いがあります。いい試合ができれば、広島も長崎も注目されると思う」

川辺をはじめとする広島の少年たちは、幼い頃から原爆のことを学んでいる。彼も平和祈念資料館には何度も足を運び、凄惨な事実やそこから立ち上がってきた先人たちの努力を、しっかりと心に刻んできた。

「特に資料館は強烈でした。被爆当時の現実がまざまざと表現されていて、本当に衝撃的でした」

何がどう衝撃的だったか。ここでは具体的な説明をやめておこう。ぜひ、1度は見てほしい。勇気をもって見つめて、そして1945年の夏に起きた現実を理解してほしいと心から願う。

そういう広島の歴史を知っているからこそ、このピースマッチに出場したいという思いは強い。開幕してしばらくは先発でプレーしていたものの、第5節・川崎F戦の前に体調を崩したことがきっかけで、ポジションを失った。慣れないサイドハーフでのプレーに戸惑いがあったことも事実だが、柴﨑晃誠が同じような事情でも高質なプレーを見せている以上、ポジションのことは言い訳にはならないし、川辺自身もするつもりはない。

当初はなかなかプレーが整理されず、ピッチの中で自分の場所が見つけられずに孤立していることも少なくなかった。しかし韓国キャンプで自身を見つめ直し「サイドハーフでの川辺駿」を確立させようと覚悟を決めた。城南FCとのトレーニングマッチでハットトリックを決め、再開後もチャンスを量産。得点につながった場面こそ前節・湘南戦における柏好文の得点だけだが、それ以外でも可能性を感じさせるシーンがいくつもある。間違いなく、危険度は増幅した。

「チームとして前半戦がうまくいきすぎていた感もあったのですが、後半に入って負傷者が出たり、(勝てるゲームを)引き分けたり。そういう感じになっただけで失速と言われてしまいます。でも、まだ後半は始まったばかり。前半のようにうまくいくほど簡単ではないけれど、自分が仕事をしたいと思っています」

縦に速い選手が多い中で、川辺はタメがつくれるし、リズムも変えられる。広島復帰後初得点をピースマッチという大きな舞台で決めれば、サポーターの熱気は最高潮に達するはず。そしてその可能性は決して低くない。

試合前には厳かに平和を考え、試合中には熱狂し、試合後は友好を深める。そんなピースマッチの主役に、広島の子・川辺駿が名乗りをあげる。そんな出来過ぎた脚本をサッカーの神様が明日、用意していただいていると信じたい。

文:中野和也(広島担当)


明治安田生命J1リーグ 第21節
8月11日(土)19:00KO Eスタ
サンフレッチェ広島 vs V・ファーレン長崎
エディオンスタジアム広島(サンフレッチェ広島)
みんなの総合評価 (2.6)
臨場感 (2.4)
アクセス (1.6)
イベント充実 (3.0)
グルメ (3.4)
アウェイお楽しみ (2.7)

移籍情報